平成14年度中国・四国地区国立学校等技術専門職員研修報告
 
 
電気電子・情報系技術班(電気・電子分野) 和田 俊彦
山本 隆人
宮田   晃
自然科学系技術班(情報処理分野)     松本 憲好
環境建設系技術班(土木・建築分野)     河野 幸一
重松 和恵
 
主    催 : 文部科学省と鳥取大学との共催
研修期間 : 平成14年9月3日(火) 〜 9月6日(金)
研修会場 : 鳥取大学工学部


 
1.目的

 中国・四国地区国立学校等の技術専門職員及び技術専門職員相当の職にある者に対して,その職務遂行に必要な基本的,一般的知識及び新たな専門的知識,技術等を修得させ,職員としての資質の向上を図ることを目的とした研修(研修実施要項より引用)である.

 
2.受講者数

参加機関 人数 参加機関 人数 参加機関 人数
岡山大学 2 広島大学 9 山口大学 3
香川大学 1 愛媛大学 8 高知大学 1
徳島大学 9 鳥取大学 8 米子工業高等専門学校 4
松江工業高等専門学校 2 津山工業高等専門学校 3 広島商船高等専門学校 3
徳山工業高等専門学校 1 宇部工業高等専門学校 1 大島商船高等専門学校 2
阿南工業高等専門学校 1 高松工業高等専門学校 2 詫間電波工業高等専門学校 1
新居浜工業高等専門学校 1 弓削商船高等専門学校 2 高知工業高等専門学校 1
( 電気・電子分野25名,情報処理分野22名,土木・建築分野18名 )  計65名


研修日程
3.研修内容
 
 3.1 「学術行政上の諸問題」
文部科学省科学技術・学術政策局計画官付計画官補佐 佐藤 正
 我々の業務に関係深い「学術」と「科学技術」の法令上の定義や位置付け,国や文部科学省の推進施策等の説明があった.省庁再編により文部省と科学技術庁が統合し,仕事のやり方の違いによる戸惑いもあったが,基礎・応用研究が政策的につながるようになったというメリットも大きい.また,産官学連携事業は,大学が社会に貢献する重要な活動であり,その取り組みは急速に拡大している.



 3.2 「人事行政上の諸問題」
文部科学省大臣官房人事課審査班法規係長 井上 睦子
 独立行政法人化について,その目的,現状からの変化,今後の計画等の説明があった.各大学がそれぞれの特徴を打ち出すために法人格を付与するという改革であり,大学自体に責任(評価,情報開示)が求められている.
 次に人事問題の現状として,昨年度の国家公務員の懲戒処分状況の説明があり,特にハラスメント問題等,公務員にそそがれる目はいっそう厳しくなっている.


 3.3 講演 「鳥取大学の産官学連携への取り組み」
鳥取大学長 道上 正規
 今,大学には,明治の帝国大学設立,昭和の新制大学設立に続く「第三の改革の波」が押しようせようとしている.この平成の大学改革つまり法人化問題について,例を交えわかりやすい説明があった.法人化の大きな柱は大学の目標策定と自己評価であり,目標を各大学が策定し,それを尊重するということを法律で謳うことが重要である.
 鳥取大学での産官学連携の実情が紹介され,大学には地域産業の活性化を期待されており,そのためには技官の役割もいっそう重要になる.


 3.4 先輩講話 「実験室の安全について」
鳥取大学工学部技術専門官 臼井 瑩
 PRTR(化学物質排出把握管理促進)法の制定や法人化等,今後の大学の安全管理に対する認識はいっそうの強化が求められている.さまざまな薬品類を扱ってきた経験から安全確保の考え方についてまず必要なのが潜在的な危険の把握,そしてそれに対する安全対策の実施,この二つが柱である.資料として配付された「安全管理チェックシート」は実に細部にわたる項目まで網羅されており,講師の安全意識の高さが伺われた.


 3.5 講演 「ポストゲノム研究としてのバイオテクノロジー」
鳥取大学工学部教授 河田 康志
 人のゲノムつまり遺伝子の配列は明らかになっており,これからはその遺伝子情報によって作りだされるタンパク質の構造や働きを調べる研究にシフトする.つまり,遺伝子(ゲノム)の後(ポスト)の研究ということであり,それが進めば,新たな医薬品の開発等に大きな威力を発揮する.また,膨大な遺伝子情報を扱うにはIT等の異分野技術との融合が重要であり,我々技官も広い分野に目を向けて欲しいとのメッセージを頂いた.

 3.6 学内施設見学 

1) 風力発電装置
 鳥取大学の平成13年度重点配分経費による実施施策として,大学農場内に風力発電機が設置され,発電量や最適制御,騒音等の実験が行われている.



2) 農学部附属農場
 鳥取といえば二十世紀梨が有名であるが,黒斑病という病気に非常に弱く,自己交配できないという欠点もあるため,それに変わる新品種の開発に力を入れている.



3) 附属図書館
 附属図書館ロビーには鳥取出身の作家による作品が展示されており,蔵書16万冊,1日平均1200人の利用者がある.他大学と同様,オンライン検索や電子ジャーナルの利用環境の整備に力を入れている.

 3.7 施設見学
1) 鳥取県産業技術センター
 県が主体となり,中小企業等への技術協力や産官学連携による研究開発を行う機関は他県にも例はあるが,本センターは県内企業の47%が電気電子関連であるという事情もあり,応用電子,材料開発にウエイトをおいている.また,地場産品を利用した新製品開発にも熱心で,智頭杉材加工品やカニ殻のキチンを利用した甘味料他の製品が実用化されていた.




2) 鳥取大学乾燥地研究センター
 本センターでは,海外の研究機関と共同で乾燥地における農業開発のための調査研究をしている.研究教育施設として,アリドドーム(Arid Land Dome)という直径36mのドーム型のガラス温室があり、乾燥地の環境(気温,湿度等)を再現できる人工環境制御装置が整備されており、現地情報に基づいた乾燥地の模擬実験を行うことができる.又,衛星受信システムで衛星画像を受信することにより,日本から遠く離れた乾燥地の情報を随時把握することができる.



 3.8 分科会 [電気電子分野]

1) 実習 「WWWホームページの作成」
鳥取大学工学部技術専門職員 石原 永伯
 ホームページ作成のための専用ツール,Macromedia DreamweaverとFireworksを用いたホームページ作成を実習した.WWWが広く普及した現在,より見やすいホームページの作成のためには,画像の適切な加工や,ロールオーバーボタン,ポップアップメニュー,アニメーション等が必要であるがそれらの作成は容易ではない.本実習では,専用ツールを用いることにより,それらのパーツが簡単に作成でき,ページ作成に威力を発揮することが体得できた.








2) 講義 「可視化情報処理 −自己組織化マップとその応用−」
鳥取大学工学部教授 徳高 平蔵
 自己組織化マップとは,多くの次元を持つ複雑なデータを,単純な二次元のマップ上に可視化し,そのデータの特徴を把握する技術である.特徴はその応用範囲の広さにあり,本講義では最短距離探索と,それを応用した回路基板への部品の装着機(チップマウンター)の最適制御や,健康診断結果からその人の健康状態を一目でわかるように表示するマップの作成などの実例が述べられた.




3) 講義 「短波長光波帯・半導体デバイス(レーザー・光センサー等)の開発動向 −展望と技術課題−」
鳥取大学工学部教授 安東 孝止
 講師は,永年NTT の研究所で光ファイバーや半導体デバイスの開発を行ってきており,それらデバイスの開発経緯や現状について,詳細な説明があった.光ファイバーの開発はいかに損失をおさえ伝送するというものだが,その経緯で光通信の光源である半導体レーザーの開発も熾烈をきわめている.近年高密度記録等の必要性から,青色半導体レーザーが注目され,これも世界中で競って研究された結果,GaN系材料が先んじた形である.これらの新材料開発は,技術者の協力がなければ不可能であったことが述べられ,技官は大学の教育・研究指導に積極的に参画し,エンジニア魂を学生達に伝授してほしいとのアドバイスがあった.


 3.9 分科会 [情報処理分野]

1) 講義 「究極の翻訳方式の実現に向けて」
鳥取大学工学部教授 池原 悟
 従来の2大翻訳システムには,インターリンガ方式(ピボット方式)とトランスファー方式があり,この多段階翻訳方式によるIPAL辞書の例文(5,000文)の翻訳実験での翻訳精度は90%で,形態素解析や構文解析の技術,機械翻訳の品質ともに限界レベルである.新方式として「意味的類型論」の観点と「等価的類推思考の原理」に基づく「言語の意味的等価変換方式」が提案され,現在研究が進められている(H13/11〜18/10の5ヶ年計画).

2) 講義・実習 「コンピュータネットワークの基礎と応用」
鳥取大学工学部助教授 村上 仁一,助手 川村 尚生
 講義では,コンピュータ使用形態について,初期の集中処理(バッチ処理)から現在の分散処理(ネットワーク)への変還,コンピュータ間通信プロトコルの変還についての説明のあと,現在主流であるTCP/IPの通信方法について各階層ごとに説明があった.
 実習では,受講者各自でLANケーブルを製作し,22台(各自1台)のPCにより3階層からなる階層型ネットワークを,ケーブル接続,IPアドレス設定,ルーティング情報設定等を各自で行い,静的及び,動的ルーティングについてネットワークが構築されたことを確認した.

3) 講義 「情報リテラシ教育と今後の課題」
鳥取大学総合情報処理センター助教授 石田 雅
 カリフォルニア州立大学情報リテラシ教育の報告から概要と問題点について,教育課程審議会(平成10年7月答申)の中の小・中・高校での「情報化への対応」についての基本的考え方,高校普通教科「情報A,B,C」について,鳥取大学の情報リテラシ講義実践概要及び講義を担当する医学科の講義内容,事前・事後アンケートの調査項目,集計結果,情報リテラシを取りまく今後の課題・問題点についての説明があり,情報リテラシ教育はもとより,今後ますますウエイトが大きくなると思われる情報処理教育では,関係機関の協力・支援があってこそ快適な運用がなされる.

4) 講義 「ソフトウェアの信頼性技術について」
鳥取大学工学部教授 山田 茂
 地方自治体,病院,銀行等コンピュータなしでは運用できない現状において,運用システム(ソフトウェア)の信頼性は重要である.知的生産作業であるソフトウェア開発では,ソフトウェア作成プロセスの各過程におけるレビュー(再調査、再検討等)が信頼性(品質)を高めるためには大きく影響するが,社会的ソフトウェアコストの増大,改善されないソフトウェア生産性,ソフトウェア技術者の不足等の問題点(危機)がある.バグのないソフトウェアを作ることは不可能であるが,ソフトウェアの生産技術・品質管理の開発管理手法「能力成熟度モデル(CMM)」によるソフト開発会社の組織成熟度(1994年,米国)の5段階評価では,混とん的管理(レベル5:67.0%),経験的管理(レベル4:20.0%),定性的管理(レベル3:12.0%),定量的管理(レベル2:0.7%),最適化管理(レベル1:0.3%)である.優秀なソフト開発企業はごく一部であり,ソフトウェアの品質管理にも国際的な水準と標準化が必要である.

 3.10 分科会[土木・建築分野]

1) 講義 「地震観測技術の進歩に見る −震度とマグニチュード−」
鳥取大学工学部教授 西田 良平
 地震観測においては,地震動を3次元でとらえることが必要であり,東西及び南北方向に水平動地震計,上下方向には上下動地震計を設置する.地震観測の目的は,震源の決定,震源メカニズム及び地球内部構造を求めること,建造物の揺れ方の計測,地盤の地震動の大きさである震度測定,物理探査等がある.地震計は,以前は機械式地震計で大型であったが,現在では電磁式地震計に改良され小型化,可搬式となっている.工学的観点からの地震の話は結構聞いてきたが,理学的観点での地震に関する話は初めてであった.

2) 講義 「海岸景観と人間の感性について」
鳥取大学工学部教授 松原 雄平
 感性は,刺激に対して感覚,知覚を生じる心の動きであって,個人,地域,国等によっても異なり,あいまい性,主観性,状況依存性を持っている.感性工学は,可能な限り定量的,客観的,再現的に具体化し評価する手法であり,人間工学より発展したものである.この講義は,あまり聞き覚えのない分野で,感性という視点からの話であり,興味深いものであった.
3) 現場見学実習

青谷羽合道路工事現場 : 工事の概要は,橋長269.00m,桁長268.76m,幅員10.26mであり,プレストレストコンクリート道路橋となっている.主桁であるプレストレストコンクリートの製作は,この工事現場内で行われており,アンダーソン工法が採用されている.構造形式は,PC7径間連結ポステンT桁橋で,主桁は1径間当たり6本使用し,この主桁を橋脚と連結一体化させT桁橋としたものである.山際からかかる橋の高架橋上部工事現場を見学し,高さ32mの景観は足がすくむ思いであったが,工事作業行程を見る機会ができ良い経験であった.



東郷ダム : このダムは,高さ39.5m,有効貯水容量65万m3 の比較的小規模な重力式コンクリートダムであり,その標準断面形状は,提体上流面の勾配は鉛直,下流面の勾配は1:0.77である.すでに,ダム本体のコンクリート打設は終了しており,ダム本体は完成していたが,湛水されていないダムを見学したのは初めてであった.また,雨天でなければ近くまで行ってその壮大さを体験したかったが,今回は全域を見渡せる場所での見学となった.







4) 講義 「ディジタル・サーベイイング」
鳥取大学工学部助教授 藤村 尚
 人工衛星を利用したディジタル・サーベイイングには,超長基線電波干渉法によるVLBI測量,人工衛星レーザ測距,GPS測量,リモートセンシング等がある.身近なものとして,カーナビゲーションシステムにおいては,誤差情報等を利用することにより,精度の高い地図情報を提供できるようになっている.ディジタル・サーベイイングという聞きなれない講義であったが,中部国際空港建設現場ではGPSを利用し,工事車両状況や工事の進捗状況が把握できるシステムや,最近のカーナビの話と併用して講義があり,スムーズに理解できるものであった.

5) 実習 「GPSによる測量」
鳥取大学工学部助教授 藤村 尚,吉野 公,技術専門職員 林 昭富
 GPS測量に使用されているWGS84は,GRS80の地球楕円体の形状と同等で,世界各国で採用されてきており,日本でも平成14年度よりWGS84が採用され,また,緯度,経度を表す座標系もITRF系が基準となり地図の基準が変更された.今回行う実習の目的は,GPS受信機を用いた簡易な1点測位を行い,緯度及び経度で決定される水平位置の誤差を確認するとともに,旧座標と新座標の差異を確認することである.GPSによる測量方法は,全11点の測定点を示した地図より測点を確認し,各測点上でGPS受信機を用い旧座標で測定を行う.測定項目は,緯度,経度及び高度とし,1測点の測定は15秒毎に3回行う.また,GPS受信機にて,旧座標の地点を探し出し,新座標モードに切り替え測定を行い,その差異を確認する.測量事情の進歩にすこし驚きつつ実習に参加し,判りやすく楽しめ向上心あふれる内容であった.




 3.11 講演 「イコノロジーの美術史学」
鳥取大学副学長 高阪 一治
 「art」という言葉は,アルス(古代ローマ帝国の言語であるラテン語の技術,技能),テクネー(古代ギリシャ語の技術,技能)を語源としている.
 美術には大きくわけて伝統美術と近代美術があり,フランス革命までの伝統美術は,宗教と切っても切り離せない関係にある.描かれたものにはすべて何らかの意味があり,その作品に込められた意味を,記述し,分析し,解釈する学問が,「イコノロジー」と呼ばれるものである.
 例として,1434年に描かれたヤン・ヴァン・エイクの「結婚式の肖像」が示され,ここに描かれている人物のしぐさ,動物,小物等に込められた意味が解説され,今までいかに絵の一面しか見ていなかったかを痛感させられた.

 
4.まとめ
 
 技術専門職員は「高度の専門的な技術を有し,その技術に基づき」職務を行う必要がある.技術はなかなか一朝一夕に高まるものではないが,本研修を通し大学や社会の期待に応えられる職員になるべく,技を身につけていきたいという思いを強くした.
 今回の研修では,多岐にわたる講義や実践的な実習,見学等により,新たな知見を得ることができた.専門分野とは異なる講義からも多くの刺激を受け,組織化や法人化に関しての他校の現状や取り組み等の情報交換も行うことができ有意義であった.
 最後に,本研修に関してお世話いただいた文部科学省及び鳥取大学,また,本学の関係各位に厚くお礼を申し上げ,結びの言葉としたい.