海外大学実地調査報告

機械系 佃

 実地調査日程:平成14621日(金)〜630日(日)

 訪 :ニューハンプシャー大学                           (平成14624日,25日訪問)

    ニューヨーク州立大学Stony Brook校(平成14627日,28日訪問)

 調   団:教員2名および職員2

1.実地調査の目的

独立行政法人化を見据えた本学の教育・研究体制の整備ならびに組織・運営の再構築等に向けて、教員および支援スタッフによる海外の大学事情調査が計画・実施されているところである。その一環として、今回米国のニューハンプシャー大学(University of New Hampshire, 以後UNHと記す)とニューヨーク州立大学(State University of New YorkStony Brook校(以後SUNYと記す)の実地調査が計画され、その調査団の一員に加えさせていただきました。

今回の調査団では、学長をはじめとして副学長、学長補佐、学部長、研究所長、附属施設長、学科主任、学長選考委員などUNHSUNY合せて延べ40人近い大学執行役員、教官、事務官等にインタビューすることができました。それらの調査の詳細については他の機会の報告に譲ることとし、ここでは私が受けた印象や技術職員の立場から関心ある事柄について述べたいと思います。

2.ニューハンプシャー大学UNH

実地調査の主眼は、大学の規模(学生数や教職員数、予算など)が本学と同程度であるUNHにおかれた。成田からの直行便が乗り入れるJ.F.ケネディ国際空港とは反対側にある(ロングアイランド海峡に面する)ラ・ガーディア国内空港から35人乗りの小型機で約1時間の航程で、ニューハンプシャー州のマンチェスター空港に着く。ラ・ガーディア空港では、通常の検査の後、外国人だけについて搭乗直前に再度徹底した手荷物検査とボディチェックが行われた。マンチェスター空港からUNHのある田舎町Durhamまでは車で約40分の距離である。途中の県道の両側に広がる森の中で目を引くのが、高さが50mにもなるという白松(ホワイトパイン)で、昔船のマストにこれが使われていたことを、調査団長で森林資源学が専門の末田先生から聞く。Durhamに近づいてくると、17001800年代の東部開拓時代の遺物で、森林を開墾した際土中にあった石を積上げて農地の境界にした石垣(Stone Wall)がいたるところに見られた。西部への開拓が進み大規模な農業が行われるにつれて、この辺りの農業は衰退し農地が放置されていった結果、元の森に戻っていったとのことであった。Durhamは、日本にも馴染のある古い港町ポーツマスに流れ込んでいる河の少し上流に遡った処にあり、河の辺りには最初に移住者が上陸したという場所に1732年と銘記された標識が立てられていた。

Durhamの人口は約2万で、その内大学の学生が半分強占めるまさに大学の町である。農学部の広大な農場を除いて、大学のキャンパスは300haもの広さがあるとのことであったが、大学の境を標すものがないため、どこからどこまでがキャンパスなのかよくわからない。ゴミも見当らず木々の緑や芝生に囲まれて落ち着いた素晴らしい環境のキャンパスは、真に思索の場としての機能も提供する大学の重要なインフラであると思われた。訪問した時期は既に夏休みに入っており、学生の姿を見ることは少なかった。学部生は夏休みにはバイトに精を出し、年間の授業料の大部分を稼ぐ。一方大学院生は、週20時間にも及ぶTA業務にあたることにより、授業料の免除等を受ける。そのため、まとまった時間の取れる夏休みが、大学院生にとって実験・研究に多くを充てることができる期間であることを、日本からの留学生より伺った。

UNHの創立は1866年で、パンフレットには、「In the past 133 years, UNH has grown from a tiny college operating out of rented rooms in Hanover to an internationally respected university with an enrollment of 12,500 undergraduate and graduate students.」と記されている。創立当時からあるThompson Hallは、現在事務局として使用されているとともに、白を基調とした明るい部屋の学長室もその中にある。先ずは学長にお会いし、全般的なお話を伺った。名刺とともに渡された名刺大の印刷物には、VISIONが記されていた。UNHならびに後述するSUNYいずれも学長は女性である、と同時に両大学とも今回インタビューした方々の中に女性の方が多数おられ、改めて米国社会での女性の活躍が印象づけられた。

Thompson Hallの他、築後100年以上経過した建物がいくつもあり、これらを改修・整備して現在も研究室や事務室等に使用している。

UNHでは、授業料と外部資金を合せると全収入の中の70%以上という大きな割合を占め、州政府からの予算は収入全体の20%そこそこである。したがって、州立大学であるにもかかわらず、私学的経営が必要で、授業料収入と外部資金獲得に努力している。UNHは公立の中でも授業料が最も高い大学の一つで、特に他州出身者の授業料は自州のニューハンプシャー出身者の2倍近く高い。それにもかかわらず、通常の州立大学では8割程度であるといわれている自州出身の学生数が、UNHでは6割弱と少ない。言い換えると、他州からの学生の獲得に力を入れており、その結果として授業料収入の内、他州出身者によるものが全体の6割程にもなっている。

学生の獲得については、Admission Office(スタッフ27人)が入学案内を100校の高校に配布し学生募集を行い、入学申請から3週間程度で入学許可がおりるとのことである。また、年間1万人にもおよぶ高校生に対し、大学見学会(見学1時間+質疑1.5時間+授業参加)を実施している。学期中はもちろん特に夏休み中は連日見学会を実施し、その案内には事務がピックアップしたバイトの学生があたっている。我々が訪問した日にも見学会に参加している高校生の一団を見かけた。

大学のスタッフについては、次のような三つのグループの捉え方がされている。@教員、AOperating Staff(秘書、清掃や建物の保守・管理、芝生の手入れ等の園丁業務、水道および電気設備のメンテ)、BPATProfessional Staff and Technical Staff)。PATには、事務系職員と技術系職員がいる。研究室にいるPATは、まさに実験・研究の支援業務にあたっており、我々にとっては重要な業務の一つである学生実験などには全く関与していない。学生実験はTAが全面的に行う。また、研究室にいるPATの多くは、そこの研究費で雇われており、したがって外部導入資金が潤沢な研究室には多くのPATが入っている。PATの内、Technical Staff の人数はこれまであまり変らないが、最近はProfessional Staffの人数が増えてきているとのことであった。今回の訪問の中で、研究室に入っているPATの一人に直接話を伺うことができた。Professional Staffである彼の現在の仕事内容は、研究室にいる学部生および大学院生に対する実験の指導や研究室のLabの管理、実験データの解析支援などであり、自分でテーマをもって研究するようなことはなく、あくまでも支援業務であり、研究者とは明確に区別されている。

能力主義の徹底さを表しているものとして、PATの評価がある。PATの一人ひとりに対して、仕事の項目の分類とそれぞれの項目について技術レベルが示された表があり、これに基づいて各自の守備範囲(処理能力)が、採用時に、あるいはその後の年間の目標として決められる。1年後当初の目標が達成されたかどうか、あるいは目標以上の成果があったかを評価する。この評価は、研究室のPATについてはそこのボス(教授)が、その他のPATについては直属の上司(Supervisor)が行い、その結果について本人と話し合い合意のもとで最終評価が行われ、次の1年間の目標が決められる。この最終評価に基づいてサラリーが決る。

大学の様々な施設・設備の有効活用も注目された。各種スポーツ施設(屋外および屋内プール、体育館、アイスアリーナ、競技場など)が有料開放されている。我々の感覚からはまだ少し早いと思われる訪問時にすでに屋外プールも市民に有料で開放されており、子供から年配の方まで多くの人が利用していた。この他、通勤・通学時に運行するシャトルバスの一般市民の有料での利用や大型の機器を備えた機器分析センターにあたるInstrumentation CenterでのPATと大学院生による有料委託測定なども行われている。学生寮の充実ぶりも特記される。キャンパス内にいくつもの学生寮があり、全学生の約半数ほどがこれらの寮に入っている。さらに今回の訪問中に利用したゲストハウス(New England Center)は、レストランやバーも備えた立派なホテルであったが、いずれも利用料金は決して安価なものでなかった。

もう一つ印象に残ったものは、駐車場の配置とその利用方法である。先述のようにキャンパスは広大であるが、それにもかかわらず駐車場の利用には厳しい制限を設けている。キャンパスの周辺部にのみ駐車場を設けており、中央部を横断するメインストリート以外キャンパス内には一切車を乗り入れさせないことにしている。このことが先に述べたように、思索の場としての静かで落着いた環境のキャンパスにしている。駐車場の利用については、基本的には1年生は利用できないが、2年生からは必要に応じて利用可能であるが、その場合も有料で、かつ自分の駐車場所は定められている。また、便利な場所を希望すると、料金は高くなる。

3.ニューヨーク州立大学Stony Brook校(SUNY Stony Brook

SUNYはロングアイランドの中央付近北側のStony Brookという海辺の町にあり、マンハッタンまでは約100Kmの距離にある。第二次大戦後の1957年に設立されたにもかかわらず、今日では全米第2位の論文数を誇るなどその後の発展が著しい。UNHには無い医学部と附属病院をもっており、学生数および教職員数いずれも本学よりも大規模である。全収入の約1/3が州政府からの予算で、残りが学費と外部資金より賄われている。

サポートスタッフとして、技術系職員に関るものは、IT関連業務やLabの支援、映画技術(二つの映画館がある)などがある。特にIT関連のスタッフは多いとのことであった。一方事務系職員には、administratorとサービススタッフがある。サポートスタッフには定年制はなく、また何時でも解雇できる。ただし、採用後67年経過すると十分仕事ができるということで、まず辞めさせられることは少ない。ここでも評価に基づいてサラリーが決る。

学内業務における学生の活用(学内清掃、キャンパスポリス、高校生体験入学、研究補助、園丁業務、食堂、パソコン室のサービス業務など)やスポーツ複合施設などの大学施設・設備の有料開放は、前述のUNHと同様に行われている。また、ここには大規模な立体駐車場があり、教職員だけでなく学生も有料のI.D.をもらって利用している。キャンパスはUNHよりもさらに広大であるが、やはりSUNYでもキャンパス内には車を入れないという思想が貫かれている。

4.まとめ

基本的な理念や目標が明確で、そのための必要なシステムの構築がきちんとなされていると感じた。常に「何ができるか」が問われ続けている中で、自信と誇りを前面に強いプロ意識を持って仕事にあたる姿勢は、教員だけでなくサポートスタッフに対しても評価システムが確立されていることと表裏一体であると思われる。これらが米国の社会風土あるいは社会通念に根ざしたシステムであるとしても、参考となる点は多々ある。今後いろいろな機会に活かしていければ幸いである。

謝辞:UNHおよびSUNYの両大学の、皆様に大変お世話になりました、とくにUNHTed Howard先生には訪問期間中随分とお世話頂きました。厚く御礼申し上げます。また、今回の調査団の一員に技術職員を加えることに対し、ご配慮いただきました学長はじめ関係各位の方々に深く感謝申し上げる次第です。