電気電子・情報系技術班 宮田 晃
主 催:日本真空協会関西支部・(社)大阪府技術協会・日本真空工業会関西支部
講習期間:平成14年5月21日(火)〜5月24日(金)
講習場所:大阪府立産業技術総合研究所(大阪府和泉市)
本講習会では,高度な真空技術ではなく,真空とはどういうものか,真空をどうして作り出すか,そのために必要な機器,システムなど基礎知識を習得することを目的とする.
受講者数は48名.名簿が公表されなかったため詳細は不明だが,年齢層は20〜30歳代の若手が大半をしめ,ほとんどが企業から参加のようであった.
月日 |
時 間 |
題 目 |
講 師 |
5 |
9:30-9:40 |
開会のあいさつ |
日本真空協会関西支部長 |
9:40-11:50 |
真空の概念 |
大阪府立大学総合科学部 |
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12:40-14:10 |
真空ポンプ(I) |
(株)大阪真空機器製作所 取締役堺工場長 吉田恵一氏 |
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14:20-16:10 |
真空ポンプ(II) |
元(株)サムコインターナショナル研究所 |
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16:20-17:20 |
所内見学 |
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5 |
9:30-10:50 |
真空計測 |
神戸大学工学部助教授 浦野俊夫氏 |
11:00-12:20 |
リークテスト |
(株)島津製作所産機事業部 |
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13:10-14:30 |
真空応用技術 |
大阪府中小企業支援センター |
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14:40-17:50 |
実習 |
元サムコインターナショナル研究所 |
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5 |
9:30-11:00 |
真空用材料 |
産業技術総合研究所 |
11:10-12:30 |
真空系の構成 |
神港精機(株)神戸営業所 |
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13:20-16:30 |
実習 |
阪大産研 長谷川繁彦氏 |
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5 |
9:30-11:00 |
真空機器の保守点検 |
アルバックテクノ(株)近畿北陸ブロック |
11:10-12:40 |
実習 |
府立産技研 吉竹正明氏 |
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13:30-15:30 |
パネルディスカッション |
(司会)広島国際学院大学工学部 |
真空とは何か,その特徴を知るとともに,真空技術の全般的な知識を修得するための,気体分子運動論を中心とした真空の基本的な事柄の解説.気体の圧力は分子密度と温度に比例する (P=nkT) ことからはじまり,気体の分子速度から平均自由行程,さらに配管のコンダクタンスの求め方などのさまざまな基本式が示された.
大気圧より10-2Paの範囲の真空を作るのに使用する各種ポンプの性能・特徴および使用法についての解説.大きくわけて機械式と噴射式ポンプの二種があるが,大気圧からの排気が可能で到達圧力も低いことから,油回転ポンプが最も多く用いられている.また油の影響をさけたい場合には,多段形ルーツポンプなど油を使用しないものもある.
高真空を得るのに使用されるポンプの性能・特徴・使用法についての解説.現在多く使われている高真空用ポンプは油拡散ポンプだが,油蒸気による汚染をきらう半導体製造分野などでは,ターボ分子ポンプやクライオポンプが使われている.そのほか,活性な物質に気体分子を吸着させる方式の,機械的可動部のないゲッタポンプ,スパッタイオンポンプなどもある.
真空計の種類,動作原理,使用方法の基本と注意を述べるとともに,それぞれによって異なる測定方法の解説.圧力測定の基本原理としては,(1)力を直接測定する,(2)単位時間に単位面積に衝突する分子数に比例する物理量を測定する,(3)気体の状態方程式を利用して密度を測定する,の三つに大別できる.具体例として(1)水銀を用いたU字管マノメータ,(2)ピラニ真空計,(3)電離真空計,があげられる.
もれ探しの諸方法について述べるとともに,もれ探しの基礎知識としてのもれの単位,大きさ,動特性,リークの時定数などについての解説.もれ量の単位としては Pa・m3/s すなわち圧力×容積÷時間が用いられる.もれ試験法は種々存在するが,よく使われるのは最も単純な放置法,ガスの種類による真空計の感度差を利用する真空計法,プローブガスにヘリウムを用い,高感度で操作も容易なヘリウムリークディテクタ法などである.
現在の産業分野の重要な基盤技術である真空を利用した薄膜形成技術を中心に,実際的な応用例についても解説.薄膜形成の技術はいずれも材料をいったん原子・分子状態にバラバラにして,それを再び組合わせて薄膜にするものである.主な方法としては真空蒸着法,スパッタリング法,イオンプレーティング法,MBE法,レーザアブレーション法がある.
真空技術のもっとも基礎となる原理,真空ポンプの種類と特性,真空部品の種類,排気システムの構成,真空排気の操作法,真空装置の保守管理などにつき,ビデオ教材によって学ぶ.
容積Vの真空容器を油回転ポンプで排気し,その排気時の圧力対時間 (P-t) 曲線から,時定数τ(圧力が初期圧力の0.37倍になるまでの時間)を求め,それよりポンプの排気速度Se (V/τ) がわかる.また排気弁を閉じ,容器内の圧力上昇時のP-t曲線から,リーク量Qを求めて,容器を排気速度Seで排気したときの到達圧力Pu (Q/Se) を計算した.
低真空で使用される種々の真空計(閉管式水銀U字管真空計,水銀回転マクラウド真空計,ブルドン管真空計,ピラニ真空計)を使って圧力の比較測定を行い,各種真空計の特徴および取扱い法を学ぶ.直接測定式の圧力計は気体の種類による測定値の変化は生じないが,ピラニ真空計はふつう乾燥空気か窒素によって校正されているので,他種の気体の圧力を測定するときには,測定値を補正しなければならない.
真空の構成に必要な材料の諸特性を解説し,それらと真空との関連や,使用に際しての注意などについての基礎的知識を学ぶ.真空材料の要素としては,価格,機械的強度,工作性,耐熱性,化学的安定性,ガス放出量などがあげられる.今まで最も多く用いられてきた真空構造の材料はステンレス鋼だが,近年アルミニウム合金の利用が増えている.その他真空系にはガラス,ゴムなどさまざまな材質が使われ,それらの特徴をよくつかんでおくことが大切である.
真空系構成の基本的概念や,真空装置の構成上の検討事項の解説.まず,その排気系で何を行うかを決定し,そのために必要な特性(必要な真空度,排気速度,かけられるコストなど)によってどういう構成要素(真空容器,ポンプ,計測器,小物部品,制御など)を採用するかを決める.複雑な装置も各要素の組合わせなので,基本要素の理解が第一に必要である.
ターボ分子ポンプおよびクライオポンプの排気速度を測定する.容積Vの真空容器を充分に排気しておき,そこに外部から流量Qの気体を流し込む.定常状態において容器内の圧力がPであれば,ポンプの排気速度SはQ/Pで計算できる.流量の測定には,油につけたビュレットで一定時間に吸い上げた気体の量をはかるビュレット式流量計と,発熱線を巻いたチューブに気体を流し,発熱線の抵抗変化から流量を求めるマスフローコントローラを用いた.
わざともれを設けた配管をリークディテクタで真空排気し,配管にヘリウムガスを吹きつけてディテクタの反応を見ながら,もれ箇所を探す.この際,ヘリウムは空気より軽いので,配管の下のほうから検査すると,上にのぼったヘリウムが別のもれ箇所から検知されてしまうことがあるので注意する.
高真空領域で,四重極質量分析計 (QMS) を使用し残留ガスの分圧を測定するとともにQMSのしくみを理解し,残留ガス成分の分析結果から装置の真空の状態を考える.実際に真空排気した容器内をQMSで測定すると,水の分子が検出された.これがある程度小さくなれば排気が十分行われたという目安になる.また,アルゴンやヘリウムを真空容器内に微量入れ,そのときのQMSの反応を調べた.
初級技術者として最低知っておく必要のある低真空領域に使用する真空ポンプ等の保守点検,使用上の注意,また機械ポンプで実際のトラブルや対策事例を交えて解説.多く使われている油回転ポンプは,系の最後にあるため汚れがたまりやすく,こまめな油の交換が必要である.クライオポンプはコンプレッサ部のメンテナンスの他,水を多量に吸いこんだ場合は再生作業が必要になる.ターボ分子ポンプは非常に精密な構造をしているので,衝撃を与えないことやポンプ内に物が落ちないような対策が必要である.
真空を応用した技術・装置などについて学ぶ.抵抗加熱式真空蒸着装置は,真空中で材料を加熱し,蒸気となった材料を基板に付着させて薄膜化する装置である.今回は銅をガラスに蒸着して薄膜化した.またスパッタリングは,真空容器中にアルゴンガス等を1Pa程度導入し,それに高電圧をかけてイオン化したアルゴンを陰極においた材料に衝突させ,飛び出した材料を基板に付着させる方法である.今回は金を白銅のメダルにスパッタリングした.
会期中に,座学・実習いずれについても疑問点を質問書で投函し,それらへの各講師からの回答がこの時間にまとめて行われた.各講義においてもう少し説明をしてほしいというところや,実際に装置を取り扱う際の実務的な質問など,2時間の予定をめいっぱい利用した活発な質疑応答が行われた.
真空技術の初心者を対象としており,今回で38回目を迎える歴史のある講習会であることもあり,非常に内容の練られたわかりやすい講習会であった.
まず,講習のテキストとして使用された「わかりやすい真空技術」(日本真空協会関西支部編,日刊工業新聞社)が,真空の理論から実際の機器の説明など,肝心なところがわかりやすく記述されており,しかも難解すぎないように配慮された優れたものだという印象を持った.
そして実習は,府立産業技術総合研究所がこの講習のために用意したさまざまな装置と,長年の経験から工夫され改善されてきたであろうカリキュラムによって,非常にわかりやすく,かつ実践的なものになっていた.理論を教科書で学ぶだけでなく,実際に自らの手でデータを集め,計算して結果を出すという作業を行うと,理解度が飛躍的に高まることを実感した.
今回の講習の内容が,少なくとも真空に関するより深い理解のためのひとつのステップには充分になったといえる.今後の自分自身の努力の積み重ねが必要である.
謝辞:本講習への参加に対して便宜をはかって下さった,工学部事務長,技術長をはじめ技術部の関係各位,ならびに講習会関係者に対し厚く御礼申し上げます.