平成12年度中国・四国地区国立学校等技術専門職員研修

期 間:平成12年9月5日(火)〜9月8日(木)

主 催:文部省・広島大学


報告者:環境建設工学技術班  二神 治,大福 学,河野幸一

この研修は,職務遂行に必要な基本的,一般的知識および新たな専門知識,技術などを習得させ,職員としての資質の向上を図ることを目的として実施された.
平成12年9月5日(火)より9月8日(金)まで4日間の日程で広島大学キャンパス内で開催され,本年度は,電気電子分野25名,情報処理分野20名,土木・建築分野(愛媛大学3名,広島大学・山口大学・徳島大学各2名,鳥取大学・岡山大学・高知大学・松江高専・呉高専・阿南高専・弓削高専各1名)16名の計61名が参加して行われた.


9月5日(1日目)

「大学を取り巻く諸情勢」  広島大学 廣瀬 事務局長 

大学改革に関するこれまでの大学審議会答申について,特に「大学改革の改善について(平成3年2月)」,および「21世紀の大学像と今後の改革方策について(平成10年10月)」の二つの答申内容の詳細な説明がなされた.

新たな府省の編成以降については,平成13年1月6日から平成23年3月31日までの間(計画期間中)は少なくとも10%の計画的削減,独立行政法人への移行,新規増員の抑制等により,25%の純減を目指した定員削減に努力する.(平成12年7月18日閣議決定)また各自将来に向けてこのことを踏まえ,取り組んでいくことが重要であるとのことであった.

「人事行政上の諸問題」  文部省大臣官房人事課 加藤 課長補佐  

すべての職員は,国民全体の奉仕者として,公共の利益のために勤務し,且つ,勤務の遂行にあたっては,全力を挙げてこれに専念しなければならない(国家公務員法96条1項)服務規程を遵守して職務に専念しなければならないことを,改めて認識した.

一般職の国家公務員の懲戒処分数は増加傾向にあり,特に公務外非行関係,通常業務処理関系(業務処理不適正・報告怠慢等),交通事故・交通法規違反関係の割合が高く,国家公務員としての自覚をすべきであると強調された.

性に間する言動に対する受け止め方には個人間や男女間,その人の立場等により差があり,セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては,相手の判断が重要であることなので,言動等には気をつけなければならない.また良い上司とは,個性を見抜く人,悩みを相談出来る人,他から認められている人,および仕事に関しては期限を明確にしてくれる人であるとの講話もあった.

「学術行政上の諸問題」 文部省学術国際局国際学術課 大谷 学術交流官 

平成13年1月6日からの中央省庁再編により,現在の行政機構を1府10省(内閣府・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省)と再編され,各行政機構の仕組みについて説明があり,文部省は科学技術庁と統合され,文部科学省となる.文部科学省には,組織として1官房,7局,文化庁が置かれ,文部科学省本省機構の仕事内容について詳しい説明がなされた.

各大学が情報公開を行って,大学の取り組みを社会に明確にすることが重要であるとのこと.知的所有権は学術上だけでなく国の財産であり,経済的価値,国際性と保護が必要である.国際交流も多くなるので,国際的な感覚も養うことが必要であるとの講義であった.

 

「人事実務上の課題」 文部省大臣官房人事課審査班 海老沼 審査第一係長

科学技術庁からの人事交流で文部省に出向中ということで,科学技術庁の業務内容等のビデオによる紹介が行われた.

国立大学教員等の兼業については国家公務員法第104条に基づき,許可を得ることが必要である.定年退職者等の再任用は平成13年4月から適用し,文部省は14年4月から実施予定とのこと.

 

「先輩講話」(教育研究支援体制の役割)広島大学 廣田・竹岡 技術専門官 

工学部廣田技術専門官は,技術向上のために,創意・工夫・創造が必要であり,仕事は自分で探し先生をよく観察することが大切であり,そこから次に進むための独創的な考えができるとの内容であった.

爆放射能医学研究所の竹岡清二技術専門官は,教育研究支援体制ついて研究者である教官と技官,事務官の3者が一体となって,初めてスムーズに研究が行なわれるものである.技術支援は,個々の持っている能力を十分発揮するために,日頃から研究内容に対する理解力,判断力,応用力,思考力等が必要とされる.さらに,今後の技官の教育研究支援役割をまとめると,

1) 基礎技術力の確保(技術の伝承) 

2) 技術向上の為の知識習得(研修会,技術研究会等)

3) 異業種交換及び同業の情報交換により,幅広い応用力の確保が必要である

との講話であった.

懇親会

講義終了後,懇親会が開かれ,各大学の現状等の情報交換が活発に行われ,親睦を深め盛況のうちに終了した.

9月6日(2日目)

「体験的研究開発論」 (株)佐竹製作所 保坂 穀物研究所長

この企業は,米に特化した,主に精米機の研究開発・製造・販売をしている会社である.まず,大学・研究所と民間企業との研究のあり方の違いについて述べられた.企業においては研究・開発は連続的であって,研究は絶対的なものであり,進歩性・実用性・経済性・開発所用期間により一般的開発テーマになり,一方,開発は相対的なものであり,開発所用投資額・開発力・特許性・事業力(コスト・性能・販売力)によって特定企業における開発テーマになり得るものである.

開発には将来性,実用性,経済性など総合力が必要で, 昔は研究開発されてから20〜30年してから製品化されていたが,近年では1〜3年位で製品化され,その後も引続き研究が行われている.また,研究開発担当者の能力的要件も重要である.

食味の良い(おいしい)米とは,デンプン質のアミローズがアミロペクチンより少なく,タンパク質は少ない方がよいとのこと.一例として,米の食味予測技術の研究開発について

  1. 官能試験

  2. ご飯の特性測定

  3. 米を粉砕して光分析

  4. 米を粒のまま光分析

  5. 収穫直後の生の籾のまま光分析

  6. 成育中の葉の光分析

  7. 成育中の圃場のリモートセンシングと進歩し,現在は人工衛星から米の食味予測のための研究

を行っているとのことであった.

 

「学内施設見学」 広島大学放射光科学研究所

放射光とは(遠赤外線〜X線まで)で,この研究所の研究設備は世界でも20数カ所しかない.また,方式としてはリング方式で電子を高速化すると90%位光に変わり,リング接線方向で光が発生する.そして放射光は結晶構造,生体物質の構造,超微粒量分析の研究に利用でき,短い時間で確認できると言うことであった.その後,同研究センターに移動し,設備機器と各種実験装置の説明を受けながら見学した.

 

「学外施設見学」

(株)シャープ東広島工場では,CADを利用して設計の集中化と効率化を図り,ロボットによるピックアップを生産するオートメション化されたラインを各工程ごとの説明を受けながら見学した.

(株)佐竹製作所では会社概要の説明後,穀物の貯蔵と加工製品までの一貫した大型プラントと個人向けの製品開発について見学しながら説明を受けた後質疑応答が行われた.

広島大学より(株)シャープまでは約1時間,(株)佐竹製作所までは約30分位の道程であった.

9月7日(3日目)

「水資源に関する研究の現状と将来」 広島大学工学部  福島教授

製品等に関する環境負荷評価(LCA=Life Cycle Assessment)は,製品が環境に及ぼす各種の負荷を,製品のライフサイクル[資源採取−生産−流通−使用−リサイクル・廃棄]全体を考慮して,できるだけ定量的に分析・評価する手法である.LCAの考え方は,「ゆりかごから墓場まで」と言われるように,製品の一生を考えることに特徴がある.

水資源に関する研究は現象解析、管理、対策・技術について解析し、流域の把握をして研究を行っており、地球温暖化に対する適応性も考え、水の循環を有効的に利用することの重要性についての講義を受けました.

 

「斜張橋建設現場見学」

この斜張橋は,広島高速道路公社の発注する広島高速4号線(広島西風新都線)の一部で,広島市の都心部(西区中広町)と「西風新都」の中心部(安佐南区沼田町)をトンネルと橋でダイレクトに結ぶ約4.9kmの自動車専用道路であり,大田川法水路を渡河する橋梁として,「山並」「市街地」といった両面性のある背景とよく調和するとともに,単調かつ茫洋とした河川空間にあってシンボル性のあるアクセント機能を持たせる目的で美観に優れる「連続斜張橋」形式を採用した橋梁である.また,この橋梁の構造は,各橋脚位置で主桁に剛結された6基の主塔より張られた2段のケーブルで主桁中央部を吊した「7経間鋼床版斜張橋」となっている.ケーブルは,亜鉛メッキ銅線f7mmを121〜223本束ね,ポリエチレンで被覆されたもので,使用箇所によって直径100mm〜135mmの6種類のケーブルが使い分けられている.主塔と主桁の架設はほぼ終了ており,ケーブルの架設およびJR山陽本線上部付近のトンネルとの取り付け部の主桁架設が行われていた.

9月7日(3日目)

「土木・建築演習」

「地盤と防災−ポスト液状化の土の性質− 広島大学工学部 佐々木教授 

最初に,箱形液状化再現装置による液状化再現実験が行われた.その装置は,板バネで水槽を支持し,液状化層として標準砂をゆるく堆積させ水で飽和状態にし,その上に構造物として模型の建物を置き,振り子式ハンマーによって水槽を振動させて,液状化を再現させるものである.講義の内容は,主に地震時の地盤の液状化についてであった.地震災害の原因は,地震動によって発生する慣性力,および地盤変形として断層,斜面崩壊・落石,液状化,津波がある.他の災害との違いとして,広域的・同時多発的な被害が発生し,予知ができず事前準備が困難であり,さらに,平常時に使える電話や道路といったライフラインの利用が制限されることである.地震時の液状化の要因としては,

  1. 粒のそろった砂である

  2. ゆるい状態で堆積している

  3. 地盤が地下水で飽和されている

  4. 地震動によって十分大きなせんだん応力が繰り返し作用することである.液状化判定としては,N値が10以下で液状化したとされる.

最後に,研究と教育の進め方として,目的を考えることによって十分理解すること,失敗・トラブルなどの障害を考えること,および知識・経験といったストックを増やすことであると締めくくられた.

「特別講演:研究上のトラブルシューティング」広島大学工学部長 佐々木教授

 トラブルシューティングを適切に行うには,トラブルに対し本質的な理解が必要であり,経験の積み重ねも劣らず重要で,さらに,過去の失敗例の十分な解析を基に法則化する必要がある.事例として,ハードウェアは概してボトムアップの概念に基づくものが多いが,ソフトウェアはトップダウン的に作成されるものが多く,ハードウェアのトラブルシューティングの出来る人はソフトウェアも出来るはずであるとのことだった.さらに,東京を相手にせず世界をターゲットにするなど興味深い話があった.

[各講義および見学での印象]

全体を通じて、1日目の講義などは,大学で行なう研修で行なわれており,再確認程度のものも多かったように思われた.また,企業の方の講義,学内施設見学,学外施設見学および現場見学など,この研修でなくては体験できないものもあり,参考になることが多々あった.さらに,3,4日目の分科会での講義は,両教授による専門科目の異なる講義を聴く事が出来き有意義であったとともに,ディスカションを通して発想の柔軟性が必要である事を認識した.

広島大学を訪れての印象は,  施設の充実とゆとりのあるキャンパスの構築に落ち着きを感じた. 全体の研修会場は「広島大学事務局4F会議室」で100名以上入れる部屋で、視聴覚設備等も充実しいた.  また, 広島大学人事課の方より丁寧なオリエンテーションと講師をして頂いた文部省の3名の方と広島大学の方々の紹介があり、受講の心構えと研修全般についての理解できた. 

 今回の研修にあたり広島大学の方々には大変お世話になりました.

「心より感謝いたします.」  

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